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本と6ペンス

The writer should seek his reward in the pleasure of his work. ("The Moon and Sixpence" Somerset Maugham)

38.人が人を裁くということ (小坂井敏晶)

こんにちは。

今回は「人が人を裁くということ」という本を紹介します。
えらく説教くさいタイトルですね。
筆者はフランスの大学で准教授をやっておられる方ですね。もちろん、だからと言って日本語がおかしい、なんていう事はありませんでした。大変読みやすい、面白い文章を書くんだなという印象です。


さて、内容ですが、決して法律のことばっかりの本ではありません。
むしろその正反対です。

第一章:裁判員制度をめぐる誤解
では、裁判員制度を中心に英米仏などの各国の司法制度の特徴と、それのもととなる考え方の違いを中心に、「裁判における主権者たる国民」とはどういう存在であるべきなのか、ということが解き明かされていきます。

第二章:秩序維持装置の解剖学
では、冤罪という事例を中心に、被疑者が「犯人」になっていくプロセスや警察側の手口について詳しく記述されています。
また、それだけでなく、そうした冤罪事件は日本に限られたことではなく、世界各国でも見られることを明らかにしながら、「人が人を裁く」という構造自体が持つ性質や問題点を提示しようとしています。

第三章:原罪としての裁き
では、「人が人を裁くということ」について、社会学や思想、哲学、時には心理学や脳科学などを駆使してその虚構性を暴いていきます。
また、主権者であることとはどういうことなのか、人間の自由意思というのは本当に存在するのか、そしてそもそも犯罪とはなんなのかということを突き詰めて考察を展開しています。


感想としては、非常に面白かったです。
もちろん第三章などは社会学や思想をなんとなくかじった者としては知っている話が幾つか出てきましたが、それでも頭の中が整理されるようで、大変学ぶものが多かったように思います。
特に、主権にかんする議論で、前回紹介した大澤真幸の考え方に近い内容が見られたのは、大変興味深かったです。

最後に、特に印象に残った部分を引用して終わりにしましょう。

「…そこで、社会秩序を正当化する根拠として主権概念が持ち出される。何が正しいかと問う代わりに、誰が正しさを定めるべきかと問うのである。

「主体とは、責任を問う社会的文脈におかれて初めて意義を持つ概念である。人間が主体的存在だから責任を負うのではない。論理が逆だ。責任を負う社会習慣があるから、主体として人間が把握されるのだ。

「自由意思は、責任のための必要条件ではなく、逆に、因果論的な発想で責任を把握する結果、論理的に要請される社会的虚構に他ならない。

「社会秩序への反逆に対する見せしめとして刑罰は執行される。…責任と罰は表裏一体だ。責任があるから罰せられるのではない。逆に、罰せられることが責任の本質をなす。」


ぜひ、法曹を志す人には読んでいてほしい一冊だと思います。
もちろん、社会学や哲学、政治をする人も読むべきだと思いますが。

興味がある人は読んでみてください。
そこまで難しいことは言っていません。ただ、社会に対する見方が変わると思いますよ。


さて、では今回はこの辺で。

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37.風の歌を聴け (村上春樹)

昨日、いつも以上になにもやる気が起きなかった状態でした。
普段からバリバリやるようなタイプではなかったのですが(正確には、一年のころに政治学や社会学系の教科書をいくつか読んで以降、教科書を読んでいくことに飽きてしまった状態でした)、最近はそれがあまりに顕著なので困っているのです。
僕のまわりにはたくさんの頑張っている人がいます。
ただ、僕だけがなんとなくそれについていけてない、そんな気持ちをいつも抱いているわけで。
それに対する苛立ちも日々募っていたのでしょう、昨日は夕方以降ボーっとするばかりで、結局何もせず仕舞いでした。
もちろん、せわしなく日常を回していくことがすべてではないことは分かっています。
でも、「空虚な日常」というフレーズを体現しているかのような自分の毎日に、なんとなく耐えられなくなったのかもしれないです。

夜の11時ころから散歩に出かけました。
人の少ない、暗くなった道をただ歩いて、何かの非日常と出会いたかったんでしょう。
そんな中で、河川敷から駅に向かう途中、ブックオフに寄ったわけです。
僕は、非日常に出会うなら、一番手頃なのは本や映画に没頭することだろうと思っています。
そんなわけで、本を30分くらい選んだ末に、結局この「風の歌を聴け」を選びました。

この本を選んだ理由はいくつかあります。
一口で味わえるような短編が読みたかったこと、そして村上春樹のデビュー作であることなど。
特に僕を引き付けたのは本の後ろにあるあらすじでした。
「青春の一片を乾いた軽快なタッチで…」
大学と青春を、僕は別のものだと思っていました。
自分の青春は高校で終わったのだと、そもそも「青春」などという誰かの手垢でべったりの考え方が大嫌いだったではないか、と、大学に入ってから僕は何度も考えていました。
でも、この本の主人公は大学生で、しかもまだ「青春」のただ中にいるらしい。
そこに興味が向きました。
乾いたタッチで、とあるが、僕の今の生活は「乾いた青春」なのではないかと、なんとなくそんな脈絡のないことを考えながら。
仮に僕の日常を描こうとすれば、どうしても乾いたものしか書けないでしょう。対象が乾ききったものなんですから。


脱線しました。
家に帰ってから、読み始めました。
大体読み始めたのが1時で、読み終わったのが2時半ころ。
まぁやっぱり何が言いたいのかわからない、こういう本を一生懸命研究する人もいるんだなぁなんて、のんきなことを考えたわけです。村上春樹の本は3つくらい読んだのですが、全部何が言いたいのか分からず仕舞いでしたね。
でも、小説は僕を現実からひき離すには十分でした。
1時間以上のあいだ、僕は日常と違うものに触れられた、それで十分です。

おかげで小テストのある二限を寝坊してしまって、いまもふて腐れながら家のパソコンの前でブログを更新しているわけですが。

小説では、人間関係が乾いているのが印象的でした。
一緒に遊んだり、何かを語ったり、つらい経験を明かしながら、主人公と周りの人間は関わっています。
でも、小説が終わると、主人公の周りにいた人たちとの関係はほとんど消えている。
あぁ人間関係って、そんなものかとなんとなく思いました。
『スタンド・バイ・ミー』という映画を見たときと同じ感じでしたね。
映画の中であんなに特別な経験をしたはずなのに、子供たち4人は物語の最後で別々の人生を歩んでいることが告げられる。
人間関係が乾いている、という表現が適当なのかわかりませんが(小説も映画も、主人公たちは濃密な交流をしているわけですから)、そんなところが印象的でした。

まぁ昨日本を読んだことで、今の僕が変わることなんてありえないでしょう。
でも、少しは違うんじゃないかなとも思います。
きっと心の底に沈殿していくのでしょう。
そしてふとした拍子に、今までとは違う対応をして、今までとは違う結論を得るかもしれないですね。
それを期待してその後の生活を送ることも、「小説を味わう」営みの一つといえるかもしれません。

退屈な日常で読んだ退屈な本。
ドラマなど起こらない本でしたが、僕の中の何かが変わったんだと思います。
目には見えないかもしれませんが、なんとなく、そう思うことが大事なような気がしているのです。

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36.夢よりも深い覚醒へ (大澤真幸)

こんにちは。
前回と同じ著者である、大澤真幸氏の本を読みました。
前回の本は2008年に書かれたものでしたが、今回の本は震災があった2011年に書かれた最新作です。
「不可能性の時代」において起こった二つの悲劇・地震津波と原発事故は、日本人に何を問い、求めているのか。
様々な学問の領域や考え方を援用しながら、現代という時代と3.11に起こったことを真に考えている本でした。

即刻脱原発を主張している点では僕と著者の考え方は相違していますが、しかしそれでも興味深い記述が多くありました。

特に、原子力が日本において豊かな生活への鍵を握る「神」としての性質をもって迎えられていること、そして戦後日本史は「普遍性pに例外qを付加する歴史である」という考察も大変鋭いと思います。

また、将来世代に対しての倫理の問題の考え方なども非常に興味深い記述がありました。

筆者は3.11以後多く出回った「震災にまつわる言説の数々」に人々が納得し始めていることに対して警鐘を鳴らしています。
3.11に対する中途半端で凡庸な解釈は、かえってあの日に日本人が感じたあの衝撃に対応するような重大な真実を覆い隠してしまうと。
そして作者は冒頭でこう述べています。
「われわれに必要なのは、幕となっている中地半端な解釈を突き破るような知的洞察である」と。

夢よりも深い覚醒、というのは本を読めばどういう意味なのか分かるでしょう。
3.11とはわたしたちにとって、なんだったのか。
それを知りたい、考えてみたい人にはぜひ読んでもらいたい本です。

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35.不可能性の時代 (大澤真幸)

こんにちは。

今回は「不可能性の時代」という本を紹介したいと思います。
日本社会の思想を戦後から順に追っていき、そして現代に対する考察を行っている本ですね。
個人的には、これが2008年に書かれたものだということにびっくりしました。
4年たった今でも通用する、いやむしろ今でこそ大きく響いてくるような示唆に富んだ内容でしたから。

さてさて、この本は僕にとっては大変面白いものでした。
飽きることなく読まさせてもらった感じです。
著者の大澤氏は東京大学出身の社会学者ですね。京都大学の教授をやっていると本のプロフィール欄には書いてありましたが。
ただ、東浩紀氏の研究などを引用している部分やオタク文化から社会を批評している部分もあり、決して頭のカタい学者の書いた本、どいうタイプではないと思います。(まぁ現代のアカデミックな環境でそんな頭のカタい人が生き残っていけるのか、ということもありますが。)

簡単に言えば、社会学という学問の面白さを凝縮したような本でしたね。
アニメや映画、小説や犯罪など、社会全体とはあまり関係がなさそうに見えるあらゆる現象を引っ張ってきて、そこから社会の持つ性質や病理を解明していく内容は、非常に知的な好奇心をそそられるものでした。


特に、第四章のリスク社会に関する議論が大変面白かった。いや、全部面白かったんですけど。
リスク社会の考え方は、原発という厄介な問題に直面する私たちに色々なことを教えてくれます。
先ほど、この本が08年に書かれたことに驚いたと書いたのは、その章を読んでいて11年の原発事故をめぐる紛糾とつながるところが余りにも多かったからです。

内容に関しては特に載せません。
中身が大変濃かったですね。
現代は不可能性の時代に突入しており、それは第三級の審判の存在が不在となっている状態と関連している、というところでしょうか。
まぁでも話が色々なところに及んでいたので、正直言って読み終わった後に何が書いてあったかまとめて考えるのは容易ではないです。
また、後半からは難解な部分が増えてきます。
もし読む場合は、ある程度集中した時間をとって、シャーペン片手にマークをつけながら読んだ方がいいかもしれません。
しかし、面白かったことには間違いはありません。
この本の面白さは、社会学という学問の魅力を伝えるのには十分だと思います。

社会学に興味があるなんて人は、一度かじってみるといいかもしれませんね。


さて、次回は同じ大澤真幸氏が書いた「夢よりも深い覚醒へ」を紹介することになるかと思います。
3.11について書かれたもののようです。
どんな考察が展開されているのでしょうか、今から楽しみで仕方ありません。

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34.日本の思想 (丸山真男)


こんにちは。
今回は、丸山真男の文章が四つ収録されている、岩波新書の「日本の思想」を紹介します。

丸山真男といえば、近代日本を代表する社会学者・思想家・政治学者ですね。知っている人も多いのではないでしょうか。

読んでみた感想としては、とにかく難しかったです。
というか、4つの文章のうち、なんとか読むことが出来たのは最後の二つだけでした(笑)
前半二つは、なんとか目を通すことが出来ても、結局何がいいたいのか、さっぱりです。
やはり、大学で勉強するなら、こういった文章も苦労しながら読むようにしなければいけないなぁと痛感しました。
新書や小説も確かに良いですが、やはり読みやすい本が多いと思います。
大学二年生になったので、そろそろ岩波文庫などの古典にも挑戦したいと思います。

あと、一番最後の「である」ことと、「する」こと
という文章ですが、これは高校の現代文の教科書に載っていました。
一度授業で読解したつもりが…
まぁ、読む時間をそこまでかけなかったというのもありましたが、授業の時よりも読みが浅いなぁと反省させられました。

もし退屈なら、こういった難解な本を読み進めるのも、いい刺激になると思います。
内容については、あまり深く述べませんが、きちんと読解すれば現代にも通じるような示唆に富んだ文章だったと思います。
また詳しく読解して、ふたたび紹介できればと思います。
とりあえず悔しいですね(笑)

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33.原発はいらない (小出裕章)


こんにちは。
今回は反原発系の本、「原発はいらない」を紹介します。

原子力発電所の事故を受けて、反原発・脱原発の動きが活発化するなか、その動きを後押しする主張はどういうものなのか。
これは原発に対してどういう考えを持っているひとでも、一度は聞く耳を持つべき問題です。
同じ時代を生きる者として、原発の是非が問われる今、一度目を通しておくべきかと思います。


ちなみに僕は原発よりも原発をとりまく環境が悪かった、という立場です。
つまり、原発というもののリスクについて社会では知る人が限定されていたこと、
リスクを受け入れる人も押し付ける人もそのリスクについては知らない場合がほとんどだったこと、
などが一番問題だと思っています。

正当なプロセスや対話・合意を経て原発が建設されていたならば、日本に原発は54も建ちません。
もし事故が起こったとしても、住民やステークホルダーの不安や疑問を受け入れる窓口が国にあれば、事故の規模はもっと小さくてすんだだろうと思います。
なにより、原発建設に合意する時点で国民がそれなりの覚悟を伴っていたならば、放射能差別などはもってのほか、ここまでパニックは広がらなかっただろうと思います。


僕の立場は原発をこのまま続けていく、というものです。
そのかわり、原発を取り巻く環境を一新するという条件付きで。
なれ合いや腐敗が蔓延っていた原子力委員会や電力会社を新しい関係にするのです。
お互いに競争しあい、監視しあい、制御しあうような関係に。
そして市民社会がもっと介入できるような環境を新たにつくることが重要だと思います。

人々は憎しみのまなざしを原発そのものに向けたままです。その心情はよく理解できます。
不条理に被災地の人々につらい生活を強いているわけですから。
でも、不条理だったのは原発だったでしょうか。
原発を推進し、反対派を露骨に排除してきしてきた国や電力会社ではなかったのですか。

まぁまだいろいろ主張はあるのですが、そんな感じの意見です。
政治や電力会社の腐敗だけでは反原発の根拠にはならないということです。

もちろん、日本が産業構造を根本から変えてやり直すことが出来るのならば、それでもいいでしょうが。
電力は足りる、それだけじゃ不十分です。
世界の資本主義社会では「電力は際限なく使える」環境を求めているのです。
確かにそれはやがて破滅へと導かれているようにも思えます。
しかし、日本はその導きに乗らないわけにはいかないのではないでしょうか。
今、日本が際限なく暴走を続ける資本主義から脱却出来たら、それは幸せでしょう。
でも、それで本当に国民の生活を守れるのか。
市場というのは、もともと、「限りある資源を、もっとも効率よく配分することができる」システムなのです。
そこから脱却して、日本はどこかに活路を見出せる保証はあるのでしょうか。

まぁ脱原発は十分わかりますが、それは許されないんじゃないかな、となんとなく思いますね。
無力感に苛まれる感じです。
今後を見守っていきましょう。

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32.100分de名著 アラン「幸福論」

こんばんは。

今日はアランの「幸福論」の解説書である100分de名著を読みました。

名著というか難解な本を読むときは、そのバックグラウンドや全体像を知っておかないと、意味が分からなくなったりつまらなくなってしまいます。
そういう点では、このシリーズは良いのではないでしょうか。
ちょうど100分で読み切れましたよ。

で、なんでアランの「幸福論」なのかというと。
まぁ大学のゼミで使うからですね。

解釈をするうえで、役立たさせてもらいます(笑)

今日はこの程度。
とりあえず、読んだという記録程度に。

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31.「反原発」の不都合な真実 (藤沢数希)

こんにちは。
今回は「「反原発」の不都合な真実」という本を紹介します。

3.11から一年を過ぎたわけですが、原発関連の本を読んだのは今回が初めてです。
「反原発」「脱原発」といった主張はよく耳にするので、そうした主張に反駁を行っている本を選ぼうと思い、この本を買いました。

まぁ感想としては、論理的には正しい、合理的なことのオンパレード、という感じでしたね。
普通に現実的に考えればそうなんだろうね、ということが書かれていました。
ただ、そういう現実的主張すら、僕はこの本を読むまであまり接触してこなかったわけですから。
現在の日本がどれほど混乱しているのかが、その点からもよく分かると思います。

この本は科学的なデータや統計の数値などをいくつも並べることで、原発の危険性やデメリットばかりを見ようとする社会の傾向に対抗しようとしています。
数値で表されるから客観的事実だ、というのは愚かすぎると思いますし、僕自身そういった「統計」や「数字」という類のものはいくらでも誤魔化しが利くのであまり信用していません。
ただ、「原発」について今理解を深めることは決して悪いことではありません。
高校物理は初歩しかかじっていない僕のような素人でも理解できるレベルの話が基本となって展開されていたので、非常に読みやすかったです。

で、なんとなく気になったところだけを。
(本の冒頭部)
「エネルギーとはそもそも危険を内包しているものなので、その安全性の評価は相対的に何がよりマシなのか、というものにならざるをえません。」
(第二章)
「年間の死亡者がゼロから数十人の死因はメディアで大変センセーショナルに報道されます。数十人から数百人になると、それは社会問題になります。そして数千人から数万人以上が死亡すると、それは珍しくもなんともなくなり誰も話題にしなくなります。メディアの報道にとっての価値あるリスクと、実際の僕たちの生活における本当の差し迫ったリスクは、全く違うものとして我々は日々生活していかないといけないのでしょう。
(第五章)
「そもそも経済と命は決してトレードオフの関係になく、むしろトレードオフとは真逆の関係」

まぁこのくらいですね。
いや、たとえばステークホルダーを考慮した場合、「原発の人命コスト」は「火力発電の人命コスト」よりも圧倒的に低い、などの議論も紹介されていました。
その辺も大変興味深かったです。
ただ、やはり「統計的なデータ」というのはどこかでごまかすことが出来るものですから、自分の中では「ふぅーん。」と思うだけに止めておきました。

また、もう原発関係の議論は「何が正しい、何が合理的」という段階では無くなっていると思うんですよね。
もう政局の中に取り込まれているのもそうですし、それ以上に「原子力」というものが余りにも国民を刺激しすぎていると思います。
そういう状況下では、「カンペキに合理的だな」と思われるような主張が、社会で本当に有効となることは残念ながらそこまで多くありません。
1億以上の人々の感情が、正論を押し殺すことは十分考えられます。
先日、泊原発がストップして日本の全原発は停止しました。
これからの日本のエネルギー事情がどうなるのか、僕には見当もつきません。(最終的には原発は再稼働するでしょうが。)
筆者の言うように、原発の技術をより精査していくことで、今回の事故を乗り越えて原子力技術の向上につとめることが出来れば、それは最高でしょう。
ただ、それは理想です。「原発なき社会」と同じレベルの夢だと考えてもいいと思います。

日本のエネルギー問題は、非常に難しい問題です。
これからどう進展していくのか、注視していきたいと思います。

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30.競争と公平感 (大竹文雄)

こんにちは。
二日ぶりですね。更新もまたスムーズにいくといいなぁと思います。

さて、今回は「競争と公平感」という中公新書の本。
なんかタイトルに惹かれて買っちゃったタイプの典型ですね。
いや、もちろん面白かったので良いんですけど。

さて、この本の中で気になった主張をいくつか挙げます。

もっとも考えさせられたのは、「日本人は市場経済のメリットを軽視しがちな傾向にある」という点についての話です。
つまり、「日本人は競争が嫌い」とか、その類の主張に関する話。
筆者は最初の方であるアンケート結果を示しています。
「貧富の差が生まれたとしても多くの人は自由な市場でよりよくなる」という文章について賛成・反対を選ばせたものです。
結果は、日本は肯定的な回答が49%と、ほかの国と比べてかなり少なかったようです。
これ以外の調査結果から、「日本人は比較的に市場に対する信頼が低い」という結論を筆者は導き出しています。
筆者は、このおおきな要因として教育を挙げています。
中学・高校などのカリキュラムでは、「市場のメカニズム」や「市場の失敗」は教えるものの、「市場経済を導入するメリット」を教えることが少ないのだそうです。
さて、では筆者が言う市場経済のメリットとはなんでしょうか。
本の中で挙げられているのは主に以下の二点でした。
・もっとも効率的に商品やサービスを人々に配分することが出来る(全体が豊かになる)
・全体が豊かになることで、その豊かさを再配分政策によって全員に分け与えることができる

まぁ、目からウロコ、というほどでもないですね。
ただ、筆者はこうした「ごく当たり前」のように感じる市場経済のメリットについて以下のように言っています。
 『市場経済がなければ、私たちの生活水準は大幅に低下する、ということを理解させることが必要』
『市場競争が多くの人にとってつらいものであるからこそ、市場競争のメリットがそれ以上にあることを、私たち自身が努力して認識し続けなければならない。』
 

市場競争を批判する前に、その市場競争の本質(メリデメ)をよく知らなければならない、ということは「新自由主義の復権」の中でも述べられていたかと思います。

また、あとがきにはこんなことが書いてありました。
経済政策・市場のルールについての言及です。
『何を目的にルール設定をしているのかを人々が理解していれば、ルール改正に伴う人々の不公平感は減り、その改正を納得する人たちが増えるのではないだろうか。』
タイトルにある「公平感」についても、筆者はこう言及しています。
『所得格差の決定要因のあるべき姿に関する価値観と実際の格差の決定要因とに乖離が生じたときに、人々は格差感をもつのだろう。』

市場経済、というものを理解するうえで非常に示唆に富んだ話が多く出てきたと思います。
経済の素人である僕ですが、経済学が自分たちの世界をどう支えているのか、リアルに知ることができる本でした。
ぜひ読んでみることをお勧めします。

また、この本はバリバリの経済学の話ばかりでなく、行動経済学の話や心理学や脳科学の話など、非常に広い範囲の話と関連付けながら話が進んでいたので、大変面白かったです。



さて、この辺でいいでしょうか。
新書がまだまだ溜まっているのでどんどん読んでいこうかなと思います。
司馬遼太郎読んでた頃からは比べられないような更新速度ですね笑
それでは、また。

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29.翔ぶが如く 一~十(司馬遼太郎)


お久しぶりです。
約1か月半くらいかけまして、司馬遼太郎の「翔ぶが如く」を読破してまいりました。

いやぁもう。
それはそれは我慢のいる読書でした(笑)

なんといっても長い。
序盤は明治政府初期の話が延々となされ、やっと「蜂起」が起こるのが第6巻。(それも神風党の乱という、西南戦争自体とは全くの別物。)
そして8巻あたりからやっと西南戦争が始まって、10巻で終了。

なんというか…そうですね。読み応えという点ではかなり根気を使ったと思います。

でも、10巻読み終えたという自己満足的な達成感と、クライマックスの西郷、桐野の最期のシーンなどを味わうことが出来たので、十分満足です。
ただ、司馬遼太郎を初めて読む、という人にはお勧めできないかもしれません…
解説にも書かれていたのですが、
司馬遼太郎は「小説」から徐々に「歴史そのもの」を描くようになっていると見られているのですが、この「翔ぶが如く」なんていうものは、ゴリゴリの歴史をつづったものとなっています。
もちろん面白いんですよそれでも。
そこに司馬遼太郎という作家の凄さと日本の歴史というものの魅力を感じるわけです。
ただ、司馬遼太郎を初めて読む人がこれを読んだら、たぶん馴染めないかと思います…
そういえば、僕の高校時代の漢文の先生は「項羽と劉邦」を課題で読ませてきましたね。
あのチョイスもまた微妙な気が…個人的には嫌いじゃなかったですけど。


あぁ、感想。感想ですか。

「書き終えて」にあったかと思うのですが、この作品の主人公は「西郷隆盛の虚像」であるという表現がすごくしっくりきましたね。
生きながらにして幕末の革命の象徴となった西郷隆盛。
彼のそうしたイメージが独り歩きして、不平士族達によって担がれるようになる様子がとても生々しかったですね。
彼自身は西南戦争など一切考えてもみなかったのに、彼の周辺の士族たちがそれを許さなかったんでしょう。
イメージばかりが肥大化しすぎた人間の苦悩を知ることが出来ました。(もっとも、この小説の中では西郷隆盛自身の思考に関する描写はほとんどありませんが。筆者自身が認めるように、西郷隆盛という人物を考えることは「会ってみない限り絶対にわからない」、難しい存在であるようです。)

また、「翔ぶが如く」戦う薩摩郡と、政府軍の攻防も面白かったです。
西郷という巨大な像に心酔するあまり、戦略を立てることや冷静な現状認識を怠りがちだった(もっとも、薩摩藩では武士は単純であることが好ましいとされ、そうしたものを軽んじる風潮があったのですが)薩摩藩が結果として敗れるのは皆さんもご存じの通りでしょう。
ただ、その死に様がすごい。
ここでは「教育」というものの恐ろしさを改めて思い知らされました。
戦場に向かう上で、命を落とす恐怖に打ち勝つための英才教育を受けてきた薩摩藩士族の奮闘ぶりは、目を見張るものがありました。

そして、いま挙げたことと対比的になるのですが、明治政府の大久保・川路らを中心とした活動も見ていて面白かったです。
作中、明治政府はいつひっくり返ってもおかしくない状況でした。
それだけにこの時代の政府の中心人物たちは「国家とはなにか」という至上命題ともいえる問いに対して答えを模索し続けた姿勢が見られました。
大久保はそれを国権主義にもとめ、川路はそれを警察制度の成立にもとめ、民権派はそれをルソーたちの思想にもとめ、江藤新平はそれを司法制度の成立にもとめ…
ここで唯一、新たな国家像を持たなかった(どう考えていたのか分からなかった)のが、西郷隆盛だったわけです。
作中でも、「政府を倒したものの、その後の時代の流れの速さについていくことが出来ず、呆然とする西郷隆盛」という構図の描写が何回か出てきました。
その通りかもしれません。
西南戦争は、イデオロギーというよりは、死に場所を求めた武士たちの情熱が爆発したものだと考えられるでしょう。そしてその際に戦争勃発を正当化し、燃料となったのが西郷隆盛という巨大な偶像だった、というと何となくすっきり考えられると思います。

「翔ぶが如く」は、非常に長い作品でしたが、それだけに学ぶところも多かったです。
西郷と桐野が死ぬシーンはこれから何回も読み返したいと思います。





さてさて、やっと終わりましたね(笑)
これからは司馬遼太郎から少し距離を置いて、新書とか読み漁ろうと思います。
とりあえず中公新書の「競争と公平感」というのを読もうかなと思ったり。

では。

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